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胎児や出世直後の新生児のお口の中は無菌状態です。
しかし、出生の過程から新生児は産道のフローラから受動的にさまざまなんだ菌の汚染を受けます。特に新生児の母親や養育者の唾液や皮膚のフローラが新生児の主な感染源になっているのいわれています。新生児と母親の母子間で高頻度に菌の伝播が生じていることが報告されています。しかし、成人から新生児へ多くの種類の菌が感染しても、口腔内に定着できる菌種はきわめて限定されているといわれています。
無菌状態の新生児の口腔内に最初に定着する菌種は先駆細菌といわれ、これらの細菌は寄り合って先駆細菌群落を形成します。この群落は時日の経過とともに増大しますが、菌の定着群の1つである上皮が剥離したり、舌や頬粘膜の運動による物理的な力や唾液の分泌などによって細菌群落自体が消失したり、大幅に減少したりします。
新生児口腔内における先駆細菌種は口腔レンサ球菌の1つS.salivariusであることが多い。生後1日もしないうちにS.salivariusが口腔粘膜に定着し増殖します。そうすると周辺のpHや栄養状態、酸化還元電位の低下などの変化がみられ、そのことがまた新たな菌種の参入を招き、構成菌種が複雑になるとともに、細菌群落の変化が起こります。最初期の新生児への定着菌種は口腔レンサ球菌群以外にStaphylococcus、Neisseria、Veillonellaなどご多くみられ、いずれも口腔粘膜に付着します。これらに比べると頻度は少ないが、Actinomyces、Lactobacillus、Fusobacteriumなどの菌種がよく分離されます。嫌気性菌はやや遅れて定着しますが、歯の萌出後に急速に増加します。そして最終的には、きわめて多彩な菌種よりなる安定な群落が生じます。これらを極相群落といいます。正常なヒトの口腔フローラはこれに該当します。
新生児における口腔フローラの成立は、半年後に訪れる歯の萌出により大きな変化を受けます。歯の萌出は口腔内に新たに広い面積の固表面を提供することになります。さらに歯の咬合面の裂溝部には多数の細菌が生息をはじめます。また、歯と歯肉の間には歯周ポケットを生じます。歯の萌出後間もなく唾液中の糖タンパク質が歯の表面に吸着し、ペリクルといわれる薄膜が形成されます。その後、ペリクル面に口腔内の細菌が定着・増殖し、微生物が集合したデンタルプラークが形成されます。プラークはそれ自体きわめて特徴的なフローラです。プラーク発生から成熟に至るまで、複雑な過程を経て変化します。
歯の硬組織に最初に定着するのは一群の口腔レンサ球菌です。これらに引き続き、放線菌や、嫌気性グラム陰性球菌が歯面でのフローラのメンバーに加わります。これらに引き続き、血液寒天培地上で黒色の集落を形成するPrevotellaやPorphyromonas属の細菌、あるいはスピロヘータのような運動能を有するらせん状菌を含む嫌気性グラム陰性桿菌群がプラークに入り込み、レンサ球菌の相対的な比率を減少させながら増加していきます。思春期以降にはこの傾向は顕著になります。これらの変化は、pH、酸素分圧、栄養、唾液分泌などの影響を強くうけます。このように成立したプラークは動的な平衡状態を維持した極相対落を形成すると、それ自体は物理的な生育を続けますが、外来の菌はプラークの新たなメンバーには容易にはなれません。初期プラークと成熟プラークの間には菌種や病原性に明らかな違いがあります。成熟プラークはう蝕や歯周病を発生する細菌の宿主への侵襲の橋頭堡となります。口腔ケアをいくら行ってもプラークの発生を阻止することはできません。
しかし、日々の適切な口腔清掃はプラークを常に初期の段階に留めておくことになり、プラークの潜在的病原性を弱めることができます。
プラークは肉眼的に直視可能な歯面のみなず、根尖に向けて歯肉縁下にも生じます。歯の萌出により生じた歯肉溝(歯周ポケット)が主な歯肉縁下プラークの発生の場となります。特に永久歯の生え揃った思春期以降には歯肉縁下プラークは複雑なフローラを形成します。なかでも嫌気性菌が優勢となりスピロヘータやその他の運動細菌も増加します。
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